枯れ落ち葉と腐葉土は違う
ここまで「枯れ落ち葉」と記して来た。
「腐葉土」とは書かないできた。
この理由は、枯れ落ち葉と「腐葉土」とは全く異なるからである。
枯れ落ち葉とは、植物が休眠又は自然に枯れたときの葉である。
草木が自然に落葉、枯れるときは、葉、植物組織内の成分は、
枝、実などに移行した後である。
枯れ落ち葉は、細胞が死んでいる。
死んだ細胞内には、澱粉、蛋白質などの光合成由来の養分は移行後であるから、
ほとんど残ってはいない。
前記しように炭素率が40より低い貧栄養状態である。
細胞が死んだ木材も同じ。
したがって、枯れ落ち葉内には、成分は僅かしか残っていない。
青い葉、青刈り稲、大豆などは「緑肥」と呼ばれるのは、栄養生長期の葉には、
光合成で作られた澱粉、蛋白質などが豊富にある。
これが分解すると肥料になるから「緑肥」と呼ばれる。
この貧しい養分の葉では、微生物の中でも生きられるものは少ない。
これに棲み付く微生物は糸状菌の材木腐朽菌などである。
酒を作る酵母、蛋白質を醗酵させる乳酸菌などは生存できない。
枯れ落ち葉のセルロースを酵母は分解できないためである。
この枯れ落ち葉を分解できるのは材木腐朽菌など限られている。
枯れ落ち葉を形成するセルロース、リグニン、ペクチン。
栄養生長期に緑の葉で光合成で作った澱粉。
これから作り上げた高分子の糖である。
この高分子の糖であるセルロース、リグニン、ペクチンを分解できるのは、
キノコ類の材木腐朽菌である。
例えば、シイタケ。
ナラ、クヌギ、シイなどの木を分解してシイタケが出る。
木材、枯れ落ち葉を酵母が分解できないから、これらからバイオメタノールは作れない。
だから、澱粉の多い食べ物のトウモロコシ、サトウキビ、大豆から作る。
ところが、酵母菌のも何百という種類がある。
昨年、秋田の研究者が、このセルロース、リグニンを分解する植物酵母を発見したという。
これを使えば、イナワラ、木材、枯れ落ち葉からもメタノールが作れるという。
以上は余談である。
ランは、この材木腐朽菌が作る糖が欲しいから、材木腐朽菌と共生した。
酵母菌、乳酸菌とは共生しなかった。
枯れ落ち葉は世界中いたるところにある。
植物の自生するところには必ず枯れ落ち葉がある。
そこには、必ず材木腐朽菌が棲んでいる。
だから、地球上いたるところにラン科植物は分布している。
一番分布しづらいのが、ラン栽培家の栽培場である。
栽培場には枯れ落ち葉がない。ラン菌がいない。
こういう馬鹿げたことが起こるのである。
以上のように考えると
「腐生ラン」という表現は的確な用い方でないことがわかる。
枯れ落ち葉は材木腐朽菌による分解であって、
醗酵、腐敗ではないからである。
腐生ランは、枯れ葉が腐敗する場所では生息できない。
腐葉土では生息できない。
腐葉土
園芸では、農業では腐葉土を使う。
これは、枯れ落ち葉に窒素が少ないから、酵母、乳酸菌など、
落ち葉を腐らす菌が繁殖出来ない。
それで、枯れ落ち葉に米糠、石灰窒素、下肥などをミックスして窒素を多くして、
酵母、乳酸菌などが繁殖しやすいようにする。
そうすると醗酵する。
「醗酵熱」が出る。
こうして枯れ落ち葉を腐敗させたものが「腐葉土」である。
要約すると
1 枯れ落ち葉 材木腐朽菌で分解・・・低分子糖→炭素循環
枯れ落ち葉を燃やす→二酸化炭素 CO2
枯れ落ち葉 材木腐朽菌が分解→糖→二酸化炭素 CO2
枯れ落ち葉を燃やしても、材木腐朽菌が分解しても最後は二酸化炭素となって空中に放出する。
二酸化炭素の量は同じである。
この二酸化炭素を植物が光合成で使用する。
これが植物の炭素循環で、二酸化炭素の空気の量は+-0である。
2 腐葉土→窒素循環
枯れ落ち葉 + 窒素を多く含むもの、米糠、鶏糞、牛糞、下肥、石灰窒素 酵母菌、乳酸菌などが醗酵、腐敗
酵母菌、乳酸菌などは、枯れ落ち葉に添加された窒素成分を食べて大繁殖し、
枯れ葉を醗酵、腐敗させて分解する
動物、魚などの蛋白質を醗酵、腐敗させるのも窒素循環である。
下肥料
人間の成人は、一日に約30gの尿素を排泄する。
この尿素の窒素が下肥(人糞尿)に含んでいるから肥料になる。
ラン栽培でも、有名な後藤健吉先生は、ランに下肥を与えて栽培していたという。
戦後間もない頃の話である。
以上のように、自生地における枯れ落ち葉と、腐葉土とは似て非なるものである。
その違いは前者は炭素循環であるし、後者は窒素循環である。
バーク堆肥
これは木材、樹皮に窒素を添加して醗酵、腐敗させたものであるから窒素循環の堆肥。
ラン用のバーク
上記のバーク堆肥を水洗いして、酵母、乳酸菌などが分解できないものが残った植物組織。
針葉樹の樹皮の組織には、微生物も分解できないところがあるから、その部分がバークとして
用いられる。
したがって、農業用のバーク堆肥と、ランで使用されるバークとは、似ているが異なるものである。
ラン用のバークは、植物組織であるが、その性質は軽石、パーライト、バーミキュライトなどの
岩石とほとんど同じ物理性を持つ。多孔質。
オスマンダ、ヘゴなどは、羊歯植物の根であるが、この根の材木腐朽菌を寄せ付けない
防護組織で、長い年月分解しないという特性から、ラン栽培に使用されてきた。
当然、ここには炭素循環はない。
水ゴケも同じである。
当然、ラン菌はいない。
以上のことから、肥料を与えるラン栽培法が生まれた。
ここにラン栽培の難しさがあるある。
この栽培を続ける限り、現在のラン栽培は、今後も進歩することはない。
ランが要求するのは炭素循環の枯れ落ち葉の糖が主で、肥料の窒素は従の関係で、
ランは生育する植物だからである。
腐生ランの存在は、それを如実に物語っている。
この腐葉土をランのコンポストにミックスすれば・・・・
ナンプ病である。
これを、山野草に使えば、よく育たない。
炭素循環でなく「窒素循環」だからである。
窒素過剰が起こる場合が多い。
腐葉土の中には、近年、家庭ゴミから作った物まである。
し尿処理場の汚泥まで混入しているものまである。
原種の植物が要求しているのは、あくまでも枯れ落ち葉の炭素循環の糖である。
枯れ落ち葉に含まれる僅かな窒素成分である。
雨に含まれている僅かな尿素である。
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