1 自生地では誰も肥料をやらない

  ラン栽培講習会を行うと、必ず出る質問が「肥料」である。
  現在のラン栽培者で「肥料」を与えない、考えないものは恐らく一人もいないであろう。
  しかし、自生地に肥料を与えたことなど聞いたことはない。
  屋久島の大王杉にアンモニアを与えたという話は聞かない。
  そういうことなのに、なぜラン栽培の講習会で肥料が重要な課題になるのか。
  ここに、現在の日本の???ラン栽培、ガーデニングの大きな問題点がある。
  植物に肥料を与えることが「当たり前」になっている。
  だが、良く考えてみると、ランの自生地で肥料など与えたものはいない。
  それでも、秘境、人跡未踏の地で生き続けてきた。
  それが原種である。
  なぜ肥料無しで生き続けてこれたのか????
  この謎に迫り、解明し、栽培にi生かすのが、このラン菌による炭素循環ラン栽培法である。

 2 ラン自生地には「炭素循環」と「窒素循環」がある。
   ランは、この地球の40億年の生命の営みの中で構築された炭素循環、
   窒素循環を巧みに利用して生き続ける植物である。
   そうしなければ生き続けることが出来ない植物である。
   地球上で最後に生まれた植物であるラン。
   新参者のラン。
   新参者が生きられる場所。
   1 先輩の植物が見捨てた場所である。
      養分、光、水などの乏しい貧しい場所である。
      蛇紋岩、石灰岩、樹上・・・・
      こういう場所に自生するランは多いが、本当にランはこういう場所が好きなのか。
      こういう場所には他の植物が生い茂ることはないから、
      僅かな養分と光と水は得られる。

      非常に貧しい生活であるが、最低限生きられる。
      ここにも炭素循環と窒素循環が存在しているからである。
      地生ラン、着生ラン、岩生ラン。
   2 先輩の植物が生い茂る場所である。
      そこには先輩の植物の死骸が堆積している。
      この死骸をエサにする微生物が多数生存して死骸を分解している。
      この死骸を分解すれば糖類と窒素が生成される。
      ここに微生物による炭素循環と窒素循環が存在する。
      ここに自生する植物は豊富な養分が得られるから、大きな身体になる。
      新参者のランに養分、光、水の争奪戦において勝ち目はない。
      極端に進化した「腐生ラン」は、勝ち目がないから葉を持たない。
      自分で働かないランである。
      ラン菌が分解し供給する糖をエネルギー源として生きる究極の炭素循環利用ランである。

   ここで問題になるのがランの自生地には必ず「雨」が降るということである。
   雷。稲妻。
   この空中のおける静電気のスパーク。
   この静電気のスパークは空気中の窒素ガスで「尿素」を合成する。
   これが、40億年前、地球に生命が存在しない時代から今日まで、
   「尿素」が地上に雨水の中に含まれ降り注いできた。
   この尿素の窒素が海に降り注いだ結果、海で生命が誕生した。
   尿素由来のアミノ酸。たんぱく質・・・。
   熱帯、亜熱帯雨林の着生ラン。
   空中に根を伸ばすのは、スコールの前に激しくスパークする静電気が合成する「尿素」を吸収するためである。
   着生ランは、こんなことまでしなければ生きられない・・・哀しい植物である。
   地上の微生物が植物、動物の死骸から作る(窒素循環)窒素にありつけないからである。

   地生ランも養分争奪戦で全敗の植物である。
   ランの生長は遅い。
   一年で伸びる葉、根をみれば理解出来よう。
   他の植物の根の旺盛な伸長の中で生きてゆくには、そのままでは養分も、水も光も得られない。
   最低の光合成で生きる耐乏生活である。
   ランが光合成で作るエネルギーは多くはない。
   発芽間もない株では、極めて少ない。
   この少ないエネルギーでは、新しく葉も根も作り伸ばせない。生長できない。
   こういう状況下でランはどうしたか。
   枯れ落ち葉を分解する材木腐朽菌と共生することを考えたのである。
   ウルトラC、逆転の発想で活路を開いた。
   究極の「狡猾」である。
   
  光合成で作るのも糖類、澱粉・・・炭水化物なら、材木腐朽菌が枯れ落ち葉を分解して作るのも炭水化物。
  ならば、材木腐朽菌をパートナーにして、セッセと材木腐朽菌を糖の運びやにすればよいのである。
  生きるための狡猾な戦略。
  これがランにあったからこそ、この生育の遅いランが生き残ってきたのである。
  ランは炭素循環と窒素循環を上手く利用して生き続けてきた植物である。

  以上のことから、ランにとって炭素循環の糖が必要不可欠のものであることが理解出来よう。
  ところが、現在のラン栽培の用土に炭素循環の糖はない。
  材木腐朽菌はいない。
  逆に、材木腐朽菌は水ゴケ、バークを早く劣変、腐植化するという理由で敵視してきた。
  材木腐朽菌が繁殖出来ない貧養分の素材・・・水ゴケ、バーク、軽石・・・を使用してきた。
  鉢内に自生地における炭素循環は削除されてきたのである。
  窒素循環の窒素、肥料としての窒素を与えるラン栽培は、方向が違うのである。
  ランが要求しているのはラン菌が供給してくれる糖である。
  あくまでもラン菌が供給する糖である。

  ラン菌のいない用土、ここに現在のラン栽培の最大の問題がある。
  ラン菌の生息しない用土で今後もランを栽培するのであれば、
  将来に亘って、現在のラン栽培のレベルより進歩することは不可能である。
  窒素循環の肥料では方向が異なるからである。
    現在のラン用の肥料、液肥はほとんど窒素循環の肥料である。

   
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