シンビの根は、前記したように水分の貯蔵庫ですので、根の伸長は葉の伸長でもあります。葉の成長は最低温度15℃以上で旺盛に行われますので、根の伸長もそれに合わせて行われます。
したがって、フラスコ出しの場合は15℃以上の高温で速やかに新根が発生伸長します。

シンビの根は、温度の他に春夏秋冬の四季のの変化、雨期乾期の変化に合わせて伸長し止めます。

根と温度

フラスコ出し後に伸びた根は根被、外層が発達して太くなる。
シンビの根になる。
フラスコ内の根。根被、外層の組織が貧弱なため根は細い。
プロトコーム

フラスコ内で伸びた根は、常に一定の湿度があるので、根被、外層が発達する必要が無く、シンビの根というよりイネの根ににている。

フラスコより出して、雑菌の多いコンポストに植えると経験上太い根が発生することが知られている。水苔でも無菌にした場合は少し細いようである。

根が太くなるのに雑菌が関係しているのかもしれない。
研究が待たれる。

フラスコ出しと根

次回は「葉のすべて」です。
   ご期待ください・・・・・・・ 宇井 清太

約3000ルクスで培養
シンビに最適なpHは5,6−6,0といわれております。
弱酸性のコンポスト、水を好みます。
フラスコ培養の場合はpH5,4に調整します。アルカリでは不溶の微量要素が出てきます。
生の水苔は大体上記のpHです。古くなるとpH7,0に近くなります。
根の好むpH
培養基
プロトコーム
茎の節
茎の節
 暗所培養の根の発生
 明所培養の根の発生
培養基
プトトコーム
茎の節
シンビの無菌播種、メリクロンを行う場合、培養基の含む唐濃度などが根の発生、伸長に大きく作用することが知られています。経験上培養基は完全な化学物質で作製するよりも、バナナなどの有機物を入れたものが使用され根の生育は良いことが知られています。
露根
水墨画は蘭に始まって蘭に終るといわれるほど、シンビは水墨画の基本になるモチーフです。
シンビの水墨画の名画は多くあるのですが、葉と「露根」の描き方で品格が決るほど「根」は重要です。蘭の「根」は画家の「信念」を表わしているものが多い。生き方の「根本」を「根」に託しているからです。
水墨画と根
植物の中には、根から再分化して幼植物が発生するものがありますが、メリクロンの研究の過程で、根の生長点からプロトコーム ライク ボデー(PLB)を作る試み行われた。私のところではPLBの発生は見られなかった。
自然の下では、根からの再分化は行われないようです。
根からの再分化
ランは種子が発芽するとプロトコームが形成され、このプロトコームから発芽しますが、根はプロトコームから出るのではなく、茎の節から出ます。
下の図のように暗所培養の場合は茎が長く伸びて、節が出来ます。数節出来ることもあります。この節々から根が出る場合があります。
プロトコームから根の発生
培養基と根の関係
シンビの根の太さには大きな差があります。
一般に2倍体は細く、3、4倍体は太い。小型は細く、中型は中細、大型は太くなります。
根の細い品種は株に比較して小さい鉢に植えます。太い品種は少々オーバーポットでも大丈夫です。
細い品種には肥料は少なく、太い品種には少し多めに与えてもよいのですが、シンビには未だ基準の肥料の与える量は解明されていないので、経験でやっている状態です。
根と植え込み材料
シンビの根には、前記したように根被、外層、内層のスポンジ状の組織ガあり、水分の貯蔵、移行には絶妙の機能を持っています。理想のコンポストは、シンビの根の性質、機能と同一のものです。現実にはそのようなコンポストはない。ここに創意と潅水などのテクニックが必要になってくるのですが、外層の毛細管現象と同じ現象のコンポストを模索ことになります。
先輩達の研究の軌跡はより優れたコンポストを求めた歴史でもあるのです。
水苔、山苔、軽石、籾殻、オスマンダ、パーライト、バーミキュライト、バーク、腐葉土、赤だま土、鹿沼土、籾殻くん炭、炭、砕石、鉢かけ、瓦を砕いたもの・・・・・などの使用例がありますが、何年も継続して良く生育するコンポストはないのです。

シンビは何百年も生きられる植物です。
それに適するコンポストはないのです。シンビをだましだまし作っているのが現状です。
根の太さについて
シンビで重要な根に露根があります。この根は地上に露出した根、又は、露を吸う根です。シンビを鉢に植えて環境が良ければ、鉢の表面に多くの根が伸びます。霧が多く地表が程よい適湿であれば、シンビは本来気根なので酸素の多い地表を好んで伸長するのです。
秋になって乾期になり雨の降らない状態では、夜露、霧の水滴をこの露根で吸収してバルブを太らせるのです。この霧、夜露がシンビに非常に大切な条件なのです。

露根について

普通に栽培した場合、新しい根は春に出て伸長を開始します。バルブのある株では去年の根から分岐します。新しいバルブの基部から新根を出すこともあります。この新根は新芽を大きく伸ばすために準備するものです。
株が順調の場合は、新芽が新根を出すのは本葉が数枚に生長したときです。前年の根が痛んでいる場合は、新芽の出始めから新根が発生することが多い。つまり、葉から水分が蒸発するようになり、根の貯蔵している水分で足りなくなると、貯蔵庫を大きくして多くの水を確保するために新根を出し伸ばすのです。
このことは、換えていえば、根を多くするには「乾湿」のムラを作ればよいことになります。

春から秋にかけて、葉の枚数が多くなり、葉の面積が大きくなり水分の蒸散が大きくなるにしたがって、根はどんどんのばします。夏の高温時には株の活力が劣りますが、この時は根に伸長も劣るようになります。

新根の発生は秋にも行われます。特にエリスロ系の品種では、秋から新芽を伸ばす品種があり、このような品種では、9月頃盛んに新根を発生させます。厳密にいえば、品種によって新根の発生時期は大きくことなるのです。
シンビの根の伸び方について
シンビの根は完成すると乾燥すればペクチンが発生するが、根の先端にペクチンが発生しない部分があります。
その部分が根幹です。
生長の盛んな時の根冠は透明で、毛根状の細胞が生えています。フラスコ内のプロトコームにも密生しますが、条件が良いと根にも見られます。さらに条件が良いと根被にも密生します。一度乾燥状態になると、自然界では消滅して二度と発生することはありません。

根冠には前記の生長点も含みます。

根冠はナメクジの好物で、食害の激しいところで、軽石、砕石栽培では次々に食べられ、著しく生育が害されることがあります。

 6 根冠
根が伸長するとき、細胞増埴が増えなければなりませんが、増埴細胞があるところです。
この細胞には、将来根被になるもの、外層になるもの、内層になるもの、中心柱になるものを含んでいます。

シンビの根の伸長は激しく、一日に1cmも伸びることがあります。

生長点にはペクチンは発生しません。

 5 根の生長点

 中心柱

 内層

 外層

 根被

水溶液の移動

ランの本当の根は中心柱である。
 根を折って見ると中にスジ状の細い糸のようなものがありますが、それが中心柱です。
実は、これこそランの根なのです。この中心柱の切断面を顕微鏡で拡大して見ると右の図のようになっています。

この断面図はイネの根の断面図とほとんど同じなのです。
ランが、シンビが根被、外層、内層を獲得するのに何千万年を必要としたのです。

根からバルブ、葉に水溶液を移動させる、葉から根に光合成で得た養分を移動させる・・・師部、導管は放射状に配列されています。
師管
導管
 4 中心柱
スコールを貯蔵するように作られている細胞に、人間が作った濃い液肥が直接この外層細胞に入るために細胞は破壊されます。肥料の害は怖いです。大切な中心柱まで破壊します。ラン菌も絶滅します。人間では腸がない、有用な腸内細菌もいない状態になります。株が回復するのに数年を要します。
液肥は自生地に降る雨の代わりです。3000−5000倍に薄めて与えると良いのです。

自生地に降るスコールには「尿素」が含まれています。
自生地の雨期には激しく「雷」が発生します。空中で静電気が放電すると、空中窒素は「尿素」に化学変化するのです。この尿素を取り込んだスコールがランに降り注ぐのです。この尿素を外層、内層のラン菌が改良してランが吸収することになります。

日本では土用の季節に雷が多く発生しますが、この季節は丁度稲が「穂孕み」する時期なので、稲を妊娠させるイネの夫という意味で、日本では「稲夫」になりました。「夫」は「つま」とも呼び「妻」を「夫人」とも言いますが、現在は雷のことを「稲妻」となった。古人が作った稲作文化は、モンスーン気候の自然の法則を喝破していたことになります。静電気が尿素を作ることを知らなくとも、土用に降る尿素の含んだ雨はイネの得がたい養分であることを知っていたことになります。

日本ではランを春から秋まで外に出し、雨に当てて作ると元気になることが知られ、シンビでは特に調子が良いのは、イネと同じモンスーン気候の植物だからです。
私のシンビは20万株も実生苗があって、外に出すことは出来ないので、素晴らしくは出来ないのです。
濃い液肥が悪いのは・・・?
外層から移動した養分を含んだ「水溶液」は内層に貯蔵されます。2次貯蔵庫の役目ですが、水溶液は「完成品」になります。内層の細胞は外層より小さく緻密で空洞状ではない。光がある条件では葉緑素多く発生し光合成できるようになっています。

フラスコ内の根は、外層、内層を区別出来ない状態ですが、中心柱の外側の細胞層はほとんど内層です。
水溶液は内層からいよいよ中心柱に移動することになります。
 3 内層
ランはペクチンを「糊」を進化させて「フィルム」にしたからです!!
葉には「クチクラ層」を作り、茎は水養分を貯蔵する「バルブ」に進化させました。シンビの全ての器官、機能は雨期でも乾期でも、低温でも、高温でもある範囲の中では生存出来るようになっています。
人間が、この仕組みに合わない管理を行った場合は、ランは簡単に枯れます。

シンビが乾期に生きられるのは・・・・?

ランの根が空中で生きるとき乾燥もきびしいですが、もっときびしいのは「紫外線」にさらされることです。
裸の細胞が「紫外線」に当たれば短時間に死滅してしまいます。
シンビの気根を保護しているのが「根被」組織です。前記のペクチンは乾燥と「紫外線」から寝を保護しているのです。

根被は根を紫外線から守ります。

この組織は、水の「貯蔵庫」です。
自生地の雨期は夕方スコールが降ります。日本のように一日中しとしと降るようなことはないのです。短時間激しく降る雨水を根の「外層」に貯蔵」して次の日のスコールまでの時間を生きるようにしています。
外層の細胞は大きな空洞のスポンジ状になっており、根被から通過した雨水を短時間に蓄えられるようになっています。

植え替えするとき根は折れ、この外層に傷がつきますが害は少ないです。
露出した根では、外層の細胞には葉緑素が出て緑の根になります。照明下のフラスコ内の根では非常に多くの葉緑素が発生します。

常に一定の水分があるフラスコ内の根は、外層の発達は貧弱で「イネの根」とほとんど構造は似ています。外層を必要としないからです。中心柱の外側に何層かの細胞が重なった状態になっています。

外層は「ラン菌」の生息する場所です。
「ラン菌」はランにとっての「科学工場」ですので、健全な外層細胞はランが健康であるために絶対の条件です。ランに微量要素の欠乏がないのは、外層にラン菌が生息しているからです。

外層に貯蔵された水分が10−20%程度現象すると、根被にペクチンが発生するようになっています。この指令をどのようなメカニズムで行われているのでしょうか・・・・?未だ解明されていません。研究している人がいません。

外層に貯蔵された雨水には微量のN,P,K,Ca,Mg,Cu,Mn,Na・・・などの養分が含まれています。ラン菌が「改良」「化学変化」した水溶液は、浸透圧の作用で根の中心に向かって移動することになります。
 2 外層
何時も100%の多湿ではペクチンは発生しません。シンビを含めて着生ランではペクチンの発生しない「多湿」はありえないので、冬であれば簡単に枯死します。
夏の雨期であれば根の伸長は止まります。根が伸長するのは水が欲しいためと、よりおおくの水を貯蔵するためなので、何時も水が十分あれば根を伸長させる必要は無いからです。
ペクチンは外層の水の貯蔵が約15%程度現象したときから顕れはじめ、水の貯蔵が減少するにしたがってその濃さを増して、根が細くなるほど乾燥したとき最高に厚いフィルム状になります。バルブが枯死するまでこの状態で生きつづけます。シンビのバルブは日本の夏の空中湿度、冬の乾燥で枯死することはほとんど無いのです。
シンビが喜ぶ乾燥というのは、根が萎びて細くなる状態ではありません。
ペクチンの仕事を過信しないことです。
1  

ペクチンにも限界があります

数秒でペクチンは無くなる
スコールの水を吸収して根は太くなる

 スコールが降った状態

 根が乾燥した状態

外層に水が貯蔵される
6 根の生長点
5 根冠
根被の表面ペクチンで被覆
ランが進化の過程で獲得したものが根被組織と機能です。
この根被はペクチン(Pectin)の発現と消滅の絶妙の機能を持つ。この機能によってランは空中でも生きられることになった。

ペクチンは細胞と細胞を接着する糊です。このペクチンはイチゴジャムの透明な液体ですが、それはミカンの皮から作るのです。このペクチンは陸上植物のほとんどの根にあります。例えば、岩山に松ノ木の巨木が立っているのは、松の根にペクチンがあり、この糊で岩の表面に接着しているからです。

ランはペクチンを二つのことに利用しています。

1 カトレア、バンダ、デンドロのよう着生ランでは気根として樹木、岩石などの表面に付着して、身体を支えま す。
シンビは地生ランのように考えがちですが、シンビの根はカトレアと同じように気根です。シンビには、デボニアヌムのように樹上で生きているものがあり、本来のシンビの性質は着生ランなのです。(シンビの中にはリゾームで生きる原種もあります)。
2 ペクチンの糊を強くしてサランラップのように被服フィルムにして根を覆い、根を乾燥から保護する。
ランはこの被服フィルムを獲得したことによって、空中に裸ののまま根をさらしても大丈夫になりました。この機能はイネ科など多くの植物でも見られ、例えば、トウキビでは上部の節から根を出しますが、ランと同じようなことが見られます。

着生ランの根は乾燥すると「白く」なり、表面はツルツルになります。それがペクチンが乾燥してフィルムになったものです。この状態であれば、ランの根は何ヶ月も乾燥しても枯死することはないのです。ランの根は多湿では簡単に枯死するのですが、乾燥では簡単には枯死しないのはペクチンのためです。

ランのこの状態と非常に似ているのが落花生の「粗皮」です。研究してみてください。

このペクチンは水を与えると数秒で融け、水を通すようになります。ビニールなどは水に融けないので水を通すことは無いのですが、自然のフィルムのペクチンは水を通し、スコールをスポンジ状の外層に蓄えられるようにするのです。この自然の「絶妙」さがランなのです。
この絶妙のことをしらないとランは作れないことになります。「鉢」が乾燥したら水を与える・・・のは、本当は正しい書き方ではなく、根が乾燥してペクチンが出たら根に水を与える・・・・と書くのが正しいのです。
   

 1 根被

中心柱の内部構造

------------ --師管
-------------導管

中心柱の拡大図

1 根被
2 外層
4 中心柱
3 内層

Cymの根の構造

根は植物にとって葉とともに最も重要な器官です。
このパビリオンでは、シンビの根について、他の植物と著しく異なるなるところを詳しく説明します。
ラン栽培で最も難しいのは根作りです。根を知ることはラン作りの、植物作りの「根本」です。

 Vol−2

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